6月29日に設立された電気自動車普及協議会(APEV)が、初めてのシンポジウムを東京で開催した。会場を訪れた私は、まず受付に並ぶ長蛇の列に驚かされた。この協議会が秘めるパワーに、始まる前から圧倒されてしまった。
なんとか席を確保すると、ほどなくしてシンポジウムが始まった。まずは中島徳至代表幹事、関東運輸局自動車技術安全部の野津真生部長、田嶋伸博幹事と、この半年間APEVがメインテーマに掲げてきた「EVコンバージョン」の推進役となってきた3名の講演から始まった。
中島代表幹事からは、半年間の活動状況が紹介された。設立当初は35にすぎなかった加盟企業・団体数が現在では130に達していることや、来年は「EVビジネス情報部会」と「地域コミュニケーション部会」を新規に立ち上げることが発表された。
野津部長からは、コンバージョンEV成功のためには安全性・信頼性の確保が大前提という要望が出された一方、APEVの規格をアジア諸国と共同で国際標準化していきたいという、世界を見据えた発言も聞かれた。
そしてEVコンバージョン部会長を務めた田嶋幹事からは、ガイドラインの礎となる自主規制項目が公開された。当日は緊急性の高い6項目が発表されたが、今後も引き続きガイドライン完成に向けて、検討を進めていくという。
たった半年で加盟企業・団体数を4倍に増やし、EVコンバージョンのガイドライン草案という結果をしっかり出したことは驚きだ。しかも来年は同様の部会が3つに増えるという。関係者の健康を心配したくなるほど積極果敢な活動である。
休憩のあとは、まず自動車専門ウェブサイトのレスポンスから、編集部の宮崎壮人氏がEVに関する意識調査の結果報告を行った。女性や若者は満充電での航続距離に不満を抱いておらず、愛車をEVコンバージョンしたい人は半数近くに上るなど、マスメディアの報道とは異なる発表内容はとても参考になった。
アメリカを中心に設計・製造用デジタルツールを提供し、本国ではテスラともパートナーシップを結んでいるというオートデスクの舟木覚氏は、今後は日本のEVベンチャー企業向けにプログラムを準備する予定であることを表明し、会場に詰め掛けた企業家たちに参加を呼びかけていた。
今年初開催された国内で唯一のEV専門展示会、電気自動車開発技術展(EVEX)の事務局を務めるアテックスのコンベンション事業本部チーフディレクター岡田繁氏からは、来年のEVEXがAPEVとの共催になることが発表された。2つの組織がタッグを組むことで、今年188を数えた参加企業・団体が大幅に増えるのは確実だろう。
続いて登場したのは、経済産業省製造産業局自動車課で電池・次世代技術室長、ITS推進室長を務める辻本圭助氏。中国は地方に多く存在する農民車をすべてEVにしようと考えていること、規格標準化においては根底を合わせることが大事であるなど、参考になる話の連続だった。
9月にAPEVに加盟したことで注目されたトヨタ自動車の東京技術部、永田雅久部長も、同社の環境技術開発戦略について講演した。EVのみならず、プラグインハイブリッドカーや燃料電池自動車などを同時に開発し、次世代電池の研究まで進めているという。トヨタの規模の大きさをあらためて教えられるとともに、そんな同社がAPEVに加盟した事実に時代の変化を思い知らされた。
ふたたび休憩のあと、今度は愛媛県と長崎県のEV取り組み事例が、2名のAPEVアドバイザーから発表された。
愛媛県EV開発センター長の佐藤員暢氏は、9月に完成したダイハツ・コペンのEVコンバージョンを紹介。開発に際しては県内にある高度な技術力を持つ企業を起用し、一般整備工場で働く技術者を集めて人材育成も行うなど、地域の発展を念頭に入れた「走る実験室」であることをアピールした。
長崎EV&ITS(エビッツ)推進担当製作監の鈴木高宏氏は、五島列島にアイミーブのレンタカーを100台導入するとともにITSを活用することで、島内に点在する「隠れキリシタン」の観光地を廻る足として活用しており、利用者は順調に増加していることを報告していた。
ヨーロッパにおいては、この種のモビリティ改革は小回りが効く地方都市からまず実践され、中央へと波及している。日本もその流れが始まったのかもしれないと、期待を抱かせるプレゼンテーションだった。
講演終了後、来賓として挨拶に立った内閣官房副長官の古川元久氏は、電気が基盤になるエネルギー社会へオールジャパンで取り組んで行くことが、日本が混迷の中から抜け出る第一歩になると語り、EVコンバージョンの推進にエールを送った。
最後にAPEV会長の福武總一郎氏が登壇。世界には自国でクルマを作らず、資源のほとんどを輸入に頼る国が多いことを挙げ、EVコンバージョンはこうした国の貿易収支を改善するなど、世界的に見ても有益な事業であるというメッセージを送った。
5時間にもわたる長いプログラムだったが、終わってみれば時の経過を忘れさせる濃密な内容の連続だった。それ以上に実感したのは、会場全体にうずまく活気だった。「クルマ離れ」に悩む現在の自動車業界とは別種の空気がそこにあった。この活気が次世代への扉をこじ開ける原動力になるのだと実感した。
(森口 将之)