6月28日(日)、第93回 パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム決勝レースが、コロラド州、コロラドスプリングス、パイクスピークを舞台に行われた。
TEAM APEV with MONSTER SPORT では、4年目のチャレンジにあたって新型マシン"Tajima Rimac E-Runner Concept_One"を新規開発し投入した。開発は短期間だったが、将来の市販車に繋がる技術を導入し、1.1MW(メガワット:約1500PS)もの最高出力ながら、四輪トルクベクトル制御によって、安全で速く走れる、電気自動車の究極的高性能を追求したマシンだ。
決勝日は朝から快晴となり、素晴らしいレースを予感させた。レースは二輪車部門からスタートし、次いで四輪車部門へ。"Tajima Rimac E-Runner Concept_One"を駆るモンスター田嶋は、4番目の出走となった。同じエレクトリック・モディファイド部門のライバル、リース・ミレン選手が先にスタートし、モンスター田嶋が後を追う。スタート地点では、電気自動車ならではの怒涛の加速に観客から歓声が上がった。
後半のセクションでメカニカルブレーキのトラブルにより大きくタイムロスを喫しながらも4300mの山頂まで駆け上りフィニッシュ。 タイムは9分32秒401を記録し、見事に自己記録を11秒以上短縮した。※
しかし、午後になってから天候は崩れ、山頂付近ではヒョウで一面の銀世界となり、麓では激しい雷雨に襲われてレースは一時中断した。30分程で雨も上がりレースは再開したが、コースは、グレンコブまでの短縮コースとされた。したがって、山頂までの全区間を走破したエントラントも、そのタイムは無効となり、同じくグレンコブまでのタイムが正式結果となった。この過酷な自然こそパイクスピーク・ヒルクライムの醍醐味であると同時に多くの自動車メーカー車両開発チームがこの山を訪れる理由でもあるのだ。
レース結果は、車両重量が何と324kgも軽い、タイムを出す事だけに特化したレーシングカートのようなマシンを持ち込んだリース・ミレン選手のタイムには届かなかったが、史上初の電気自動車による総合1位2位独占が実現し、我々としては、市販車の技術開発を行っている現在のパッケージで考え得る最高の結果を得たと言えるだろう。
「今年のパイクスピークは大変な天候になりました。私達はトップセクションまで走れたのですが、途中から大雪になりまして、結局コースは半分のグレンコブまでということになりました。私はトップまで走れて満足していますが、残念なことに途中からブレーキが破損し、思うように走れませんでした。
それ以外には、クルマの制御を極めようということで、クロアチアのリマックオートモビル社と組んでトルクベクトル制御を入れているんですが、これが非常に良く働いてくれ、ブレーキが効かないにも関わらず去年のタイムを11秒も更新することができました。技術開発という面では、レースウィークを通じて多くの開発を進めることができ、性能を証明できる素晴らしいヒルクライムになりました。四輪を独立して制御するオールホイールコントロールという概念をさらに進化させ、いかなるシーンでも安全に走れる自動車を開発して行きます。パイクスピークは素晴らしいヒルクライムです。今後も参加を続けて行きたいと思いますので、これからも応援よろしくお願いします。
総合順位
Pos. | No. | Driver | Car | Division | Time |
---|---|---|---|---|---|
1 | 3 | Rhys Millen | eO | Electric Modified | 9:07.222 |
2 | 1 | Nobuhiro Tajima | TAJIMA | Electric Modified | 9:32.401 |
3 | 98 | Paul Dallenbach | PVA | Open Wheel | 9:36.496 |
4 | 111 | Jeff Zwart | PORSCHE | Time Attack1 | 9:46.243 |
5 | 88 | Spencer Steele | PVA | Open Wheel | 9:53.494 |
6 | 18 | Clint Vahsholtz | FORD | Open Wheel | 9:55.479 |
※上記記録は参考記録(無効)です。 荒天によりコース短縮、全選手ともグレンコブまでのタイムで順位決定し、正式なタイムは主催者より後ほど発表されます。
練習/予選走行3日目は、再びトップセクションの走行となった。23日のサンクションドプラクティスと同じコースを再走するため、これまでに行ってきたことの結果を確認できる良い機会になる。
午前5時30分走行スタート。天候は快晴で気温も平常通りで問題はない。"Tajima Rimac E-Runner Concept_One"を駆るモンスター田嶋は、改善のために行った事をひとつひとつ丁寧に確認しながらコース攻めて行く。結果はタイムにも現れ、初日のタイムを大幅に更新した。
短期間での車両製作・開発にも関わらず、レース用セットアップがまとまりつつあり、チームの雰囲気はポジティブだ。我々のチャレンジは、電気自動車の普及拡大を目指したものであり、そこで使われる技術が市販車へフィードバックされて行く事を前提としている。開発が順調に進み、将来の展望も見えてきた。
「プラクティス3日目が終了しました。これまで進めてきたセッティングが、ようやくまとまりつつあります。今年のクルマは、昨年のマシンと外観は似ていますが、内容的には全くの別物で、新しいシステムやバッテリーを搭載しています。短い開発期間でここまで仕上がったことに、チームとリマック社の皆さんに感謝を申し上げたいです。タイヤに関しても高出力に対応するものを、これも短時間でGiti社に開発してもらいました。開発期間に余裕が無く厳しいチャレンジでしたが、今日のプラクティス3では自分が思い描くような走りをすることができ、まずは安心しています。
クルマの性能としては、昨年モデルのE-Runnerに対して80Kgほど増加しています。ヒルクライムでこの数値は大きなハンディですが、今日の走行では昨年を凌ぐ性能をタイムで確認できました。日曜日のレースデイも、昨年のタイム(9分43秒900)を更新することを目標に走ります。応援よろしくお願いします。」
Pos. | No. | Driver | Car | Run1 | Run2 | Run3 | Run4 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 3 | Rhys Millen | eO | DNS | 2:26.83 | 2:22.20 | DNS |
2 | 1 | Nobuhiro Tajima | TAJIMA | 2:40.08 | 2:34.19 | 2:35.52 | DNS |
3 | 83 | Tim O'Neil | Entropy Racing | 3:15.83 | 3:12.45 | 3:18.64 | DNS |
4 | 82 | Rick Knoop | Entropy Racing | 3:33.89 | 3:23.58 | 3:16.51 | DNS |
練習/予選走行2日目は、ミドルセクションで行われた。グレンコブをスタートしたマシンはほどなく森林限界線を超え、急峻な斜面に刻まれたつづら折れのカーブをいくつも抜け標高を上げて行く。半径が小さいコーナーを、きつい勾配で繋いだコースであるため、コーナーでは急減速によって一気に車速を落とし、次のコーナーに向かってダッシュして行く。ここで、いかにスピードを乗せることができるかがタイム短縮の鍵になるコースだ。
これまでと同様に、日の出前の午前5時30分に走行開始。森林限界線を超えるため風を遮る物が無く、冷たい風が吹き付ける。太陽が出て路面を暖めるまでは慎重なドライビングを要求される。"Tajima Rimac E-Runner Concept_One"を駆るモンスター田嶋は3回走行し、貴重なデータをチームに持ち帰った。
チームでは、ニューマシンなら必ず遭遇するであろう課題を、これまでのテストを通じていくつもクリアしてきた。昨日までの走行で残る課題はほぼ明確になっており、今日も、練習走行とその後のプライベートテストを通じて調整と走行を繰り返し、多くのパターンをテスト。四輪独立制御の熟成を進め、ドライバビリティ向上とトラクションの改善に取り組んだ。"Tajima Rimac E-Runner Concept_One"は、着々とデータを蓄積し鍛え上げられている。決勝まで残り2日、チームでは決勝のスタートラインを見据えて、引き続きハードワークをおこなって行く。
「きちんと最後まで走れたのは1回だけでしたが、ポッと走っただけでも去年のタイムを6秒上回っていますから、悪くない感触です。去年のマシンより若干重量が増えていますが、パワーが上がったり、トルクベクトル制御でタイヤを上手く使えるようになったりしてそこまで来ていますので、それをもっと上手くセッティングしようということで、今もテストで色々と試している所です。あとは、トルクベクトル制御が、もっと僕の走りに安定してマッチするセットができれば...四輪独立制御のエンジニア、タイヤのエンジニア、それぞれの専門家が全員で注力していますからクルマはもっと良くなります。今日は非常に手応えのある一日になりました。」
明日の練習走行3日目は、再びトップセクションを走行する。また、夜にはコロラドスプリングスの中心街で「ファンフェスト」が開催される。3万7000人の観客が訪れる一大イベントで街全体がパイクスピーク・ヒルクライム一色に染まり、最高のムードで決勝レースを迎える。
Pos. | No. | Driver | Car | Run1 | Run2 | Run3 | Run4 | Run5 | Run6 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 3 | Rhys Millen | eO | DNS | DNS | 2:18.06 | 2:16.36 | DNS | 2:15.11 |
2 | 1 | Nobuhiro Tajima | TAJIMA | 2:31.17 | DNS | 3:03.22 | DNS | DNS | 2:24.92 |
3 | 83 | Tim O'Neil | Entropy Racing | 3:12.78 | 3:09.40 | DNS | 3;05.83 | ||
4 | 82 | Rick Knoop | Entropy Racing | 3:26.91 | 3:21.49 | DNS | DNS |
練習/予選走行1日目は、昨日から一転してボトムセクションの走行となった。決勝レースと同じスタート地点から緩やかに標高を上げて行き、グレンコブの1マイル程手前でフィニッシュ。走行距離は10kmほどと長く、全コースの約半分に値する。パイク・ナショナルフォレストの広大な森の中を縫うルートだ。路面状況も比較的良く、コース幅も広いため気持良く走ることができる。
午前5時30分に走行スタート。少し雲が出ていたが降雨の心配はなく、気温も高めに感じられた。ドライバーのモンスター田嶋にとっては、もう数十回は走った慣れたコースがだが、全くのニューマシンである"Tajima Rimac E-Runner Concept_One"にとっては、初めてのコース。トルクベクトル制御まで搭載する4モーター4輪独立制御のハイテクマシンだが、まずコースを学び、様々な要素をフィットさせる事から始めなくてはならない。チームでは、今日とは違う決勝の路面を想定しながら、セッティングを進めた。
「新しいマシンは、これまでで最もパワーとトルクがありますし、非常に良い状態です。ただ、そのパワーを活かす制御が上手くいっていないので、そのセッティングを進めています。ボトムセクションの路面は問題ありませんでした。四輪独立制御を熟成させていくことが、今一番大事な事ですね。」
明日の練習走行2日目は、ミドルセクションとなる。急斜面に刻まれたつづら折れの山道で標高を一気に上げて行く区間であり、好タイムを刻むためにはパワーとトラクションが必要なコースだ。
エレクトリック・モディファイドDiv.
Pos. | No. | Driver | Car | Run1 | Run2 | Run3 |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 3 | Rhys Millen | eO | 3:47.164 | 3:43.755 | DNS |
2 | 1 | Nobuhiro Tajima | TAJIMA | 4:06.804 | 4:08.291 | 4:23.182 |
3 | 83 | Tim O'Neil | Entropy Racing | 4:51.013 | 4:50.535 | |
4 | 82 | Rick Knoop | Entropy Racing | 5:23.560 | 4:57.466 | 4:56.292 |
*Unofficial
第93回 パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライムのレースウィークが幕を開けた。
22日に受付と車検が行われ、23日からはいよいよコース走行がスタートした。サンクションド・プラクティスと言われる自由参加の練習走行だが、レースコースの走行機会は少ないだけに有効に使いたいところだ。
エレクトリック・ディビジョンに割り当てられたのは、標高3800mのデビルズプレイグラウンドから、4300mの山頂フィニッシュラインまでのトップセクション。レースウィーク直前に降雪があり、山肌にはここ数年ないほど多くの雪が残っているが、パドックやコースは問題なく使用できるようにされた。
一方でコースには新たな問題が浮かんできた。ひと冬を超えて路面が浮き沈みし、大きなうねりがいくつも連なる区間ができてしまった。ひどい場所ではマシンを跳ね飛ばしてしまう程で、この日も2台のマシンがコースオフを喫することになった。
トップセクションは非常にスピードが乗る区間だけに、路面のうねりや段差がマシンに与える影響は大きく、ドライビングも非常にシビアになる。全コース舗装路になり、マシンの仕様はサーキットレースのそれと近づいてきているが、それだけでは通用しない。やはりパイクスピークは一般公道を使ったレースであり、様々な環境への適応性を磨けることが、私達がこのレースに参戦を続けてきている理由でもあるのだ。
"Tajima Rimac E-Runner Concept_One"を駆るモンスター田嶋は、五感を研ぎ澄ませてコースの変化を感じ取り、最適な走行ラインを選び抜くと同時に、セッティングの方向性を確認していった。
「今日はサンクションド・プラクティスの機会を使ってテストを行いました。その結果、多くのデータが取れましたので、明日のプラクティス1に備えてセットアップして臨みたいですね。今年は路面状況が悪く、特にトップセクションの後半はこれまで以上にバンピーで、マシンがバンバンと飛ばされてしまって難しいコンディションです。すでにコースアウトしたマシンもありますし、サスペンションストロークの見直しなどもしっかりやる必要があります。これから山を降りてテストをして明日に臨みます。」
明日の公式練習走行は、一転してパイク・ナショナルフォレストの豊かな森の間を縫って走るボトムセクションとなる。予選を兼ねるためタイムを出すことは重要だが、レースを見据えて、全コースで通用するセッティングを見つけるための1日になるだろう